主に訴訟の相談をする場合の話だが、証拠がないまま法律相談に行くと、勝てる見込みが薄いと判断されて受任してもらえない恐れがある。

ここでは、証拠集めの方法をお伝えする。

裁判で勝つか負けるかは「証拠」が決める

裁判で勝つために最も重要なことは、いかにこちらに有利な証拠を提出できるか否かということである。

主役は証拠であり、腕のいい弁護士を雇ったり立派な書面を作成することは、証拠の魅力を増すための手段に過ぎない。

たとえ高名な弁護士が立派で説得力のある書面を作成しても、証拠がなければ机上の空論である。

証拠は自分で探す

弁護士を雇ったとしても基本的に証拠は自分で探すことになる。

これを実践できるかどうかが勝敗をわける。

このことは現役の弁護士が出版した本「裁判所の秘密」(宝島社)に詳しく記述されているとおりである。

浮気については探偵を利用すると非常に有益な証拠をつかんでくれることが多々ある。

間接証拠も積極的に提出すべき

裁判における証拠というのは、直接的なもの(直接証拠)と間接的なもの(間接証拠)がある。

たとえば、貸金訴訟の場合の直接証拠は借用書であろう。

間接証拠としては、こちらがお金を貸すために銀行からお金を引き出した際の通帳記帳などが該当する。

直接証拠だけではなく、その周辺事実を固める間接証拠も積極的に積み上げていくべきである。

どのようなものが証拠になりうるか

日本の裁判制度は、自由心証主義をとっている。

わかりやすく結論を言えば、「証拠は○○でなくてはならない」というような規定が一切なく、裁判官の目の前に現れた全ての事象に対し、裁判官の自由な心証により採否が決定される。

それはには、物理的なものばかりではなく、当事者の態度や証拠を提出した時期なども含まれる。

例えば、遺産相続の裁判で、遺言の手紙を証拠として提出したとしよう。

その手紙が本物か否か、証拠として採用するか否かは裁判官の自由な心証によって判断され、その心証を形成する過程で、証拠提出者の態度や提出のタイミング等、一切のことが考慮される。

なぜこのような方式が採用されるのか。

それは、結局のところ、真実の解明のプロセスは書面にしたりマニュアル化できるものではなく、自由心証主義が最も真実の解明に資するとの経験則に基づく。

裁判官も1人の人間であるから価値観は人それぞれであり、同じ証拠でも裁判官によって採用する人とそうではない人に判断が分かれる場合も当然あり得る。

交通事故であれば事故証明書や診断書、お金の賃借であれば借用書のようなものが証拠になり得ることは誰でもわかるが、そのようなもの以外に証拠になり得るものについて具体例をあげる。

録音・録画

まず、録音・録画することを相手に明かす必要はない。

極一部の例外を除き、大部分の裁判官は隠し録音・録画を証拠として採用している。

隠し録音・録画については、証拠収集において非常に有力な手段である。

電子メール

相手が作成して送ってきたものについては、書かれた内容については認定される可能性が高い。

よって、相手とのメールのやりとりがあれば、遡ってよく確認する必要がある。

古いメールに、思ってもみなかったようなこちらに有利なことが書かれている場合もある。

必要な証拠をそろえる

まず、自分の訴訟においてはどのような証拠が必要なのか考えて準備する。

貸したお金の返還を求める訴訟の例を以下に示す。

  1. 直接証拠
  2. 何と言っても借用書だろう。

  3. 間接証拠
  4. 銀行口座からお金を引き出した際の通帳記帳や、お金を貸した日に相手と会う約束をしたメールなどが考えられる。

証拠が足りない部分は、隠し録音・隠し録画を使って証拠を得る

次に、自分の手持ちの証拠において、立証に不足している内容を考える。

例えば、上記5のように貸したお金が返ってこないことを争う事例において、証拠になりそうなものがお金を引き出した際の通帳記帳しかなかったとする。

そこから、日付(例:2年前)と金額(例:100万)は証明できるが、これだけで訴訟に勝つことは難しい。

その場合は不足する内容を隠し録音・録画で補えばよい。

このケースでは下記①②を録音したいところだ。

どのように話を振って必要な発言を引き出すかを事前によく考えておく。

100万円を貸したこと100万円を銀行から引き出した証拠はあるのだから、それと同じ金額を貸したことを録音する。
上記①は2年前に貸したこと通帳からお金が引き出された時期とお金を貸した時期が一致していることまで録音できれば、なお良い。

上記①②をうまく録音して通帳と一緒に提出すれば、かなり有利な展開になるだろう。

どのような会話をどのような話の流れで引き出すかは、個々の事例と手持ちの証拠により異なるが、手持ちの証拠と録音の内容がうまくリンクする発言を引き出せるように、事前にストーリを考えておく。

ここで注意すべき点は、こちらの発言に相手が「うん」とうなずいているだけの会話では、証拠価値が低いということだ。

証拠として採用されない可能性もある。よって、相手に自発的にしゃべらせなくてはならない。

上記事例に対しに、理想的な録音例を示す。

本人
いつになったらお金を返してもらえるの

相手
もうちょっと待ってくれ、必ず返すから

本人
100万は大金だから早く返してほしいんだけど

相手
こっちにだって100万は大金だよ。すぐには用意できない

本人
でも、貸してから結構経つよね?貸したのいつだったっけ?

相手
2年位前だったと思うよ。

上記は説明するための例であり、こんなにあっさりうまくいくケースは少ないだろうが、粘り強く会話を続け、必要な発言をうまく引き出す。

このように、隠し録音・録画のメリットは、後からいつでも実行できる(ただし一般的には裁判開始前ではないと難しい事例が多い)、足りない証拠をいくつも同時に取得できるということだ。

上記事例は録音の場合だが、浮気やDV等は現場を押さえた録画が、より有効だ。

紛争の内容により、音声だけでよい場合と、録画のほうが望ましい場合とがあるので事例により使い分けるとよい。

録音・録画する機種に注意

録音・録画したものを証拠として提出する際は、反訳書と録音・録画した 記録メディア(事実上CD-Rに限定されている)を提出しなくてはならないため、録音・録画したものを複製できる機種で録音・録画する必要がある。

安い機種を購入するとUSBケーブル等でパソコンに接続できないことが多いので、CD-Rとして提出することは非常に困難である。

よって、録音・録画に使用する機種は記録内容をパソコンでCD-Rに複製できる機種を選択しなくてはならない。

この選択を誤るとせっかくの証拠が無駄になる可能性があるので、録音・録画する機種の選択を誤らないように注意が必要である。

電話録音する際の機種選定上の注意点

電話録音にはICレコーダーを使用するが、その際、イヤホンマイクを通して録音を行う。

イヤホンマイクとは、イヤホン型のマイクであり、外観は普通のイヤホンと同じである。

使用方法は、ICレコーダーの録音用マイクジャック(イヤホンマイクの差込口)に差込み、イヤホンマイクを耳につけた状態でそのまま普通に電話で会話をすると相手の声がイヤホンマイクを通じて録音される(イヤホンを耳にあてた状態で通話していても相手の声が聞こえるような構造になっている)。

ここで注意すべきことは、ICレコーダーの機種によっては録音用マイクジャックがないものも存在するので、電話録音をする場合は、必ず録音用マイクジャックがある機種を選択しなくてはならないことだ。

録音・録画では自分で反訳書を作らなくてはならない

録音・録画はそれだけをそのままで提出するわけにはいかない。

必要な反訳書を作成して添付する必要があるのだ。

反訳書とは会話を文字に起こした書面を指す。これは、弁護士を雇っていても基本的に本人自らがやらなくてはならない。

私もそのようにした。

録音の反訳書

裁判所には、音声と反訳書を提出するが、裁判官は録音を音声で聞くことは基本的になく、反訳書のみを見る。下記に反訳時の注意事項を述べる。

  • 注意点1
  • 発言した言葉を上記第6項で記したスタイルでそのまま文字に起こす。
    言い間違えたりどもったりした発言もそのまま文字にする。

  • 注意点2
  • 会話が長い場合、関係のない部分は反訳を省略してもよい。
    出だしから省略している場合、反訳書の冒頭に「録音開始から○分○秒」と記載する。
    途中から最後まで省略する場合は、反訳書の最後に「以下最後まで省略」と記載する。

  • 注意点3
  • 重要箇所には赤線を引く

録画の反訳書

基本的に録音の場合と同じであるが、裁判官に見てもらいたい場面は、その反訳場面において「録画開始から○分○秒 顔面を殴る」等の記述を挿入しておけば、その部分は裁判官に見てもらえるだろう。